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いきいきOB訪問1

オリジナルアートに挑戦

稲見一良(いなみ いつら)という作家をご存じだろうか。1985年、54歳で肝臓癌の手術を受けるも、全摘出が困難と知るやサラリーマン生活を辞めて作家生活に専念。1989年、58歳で作家デビューを飾る。1991年 『ダック・コール』で第4回山本周五郎賞、第10回日本冒険小説協会大賞最優秀短編賞を受賞。日本では少数派といえる「狩猟」や「ハードボイルド」の視点から人間を捉える小説家として期待されたが、9冊の本を残して1994年63歳でこの世を去った。ひとことで言うと「ハードボイルドな人生」を送った人だった。

今から32〜3年前の約3年間、稲見さんは私の上司だった。私はテレビコマーシャル制作会社の駆け出し制作進行(アシスタントプロデューサー)。稲見さんはプロデューサーで演出部の部長だった。とにかく怖い人で、制作スタッフが失敗すると「殺すぞ!ワレ」(稲見さんは大阪出身)とナイフを頬に当てられるという噂が若手の間で広まっていた。
私は何度も失敗した。「こんな恥をかかされたのは、業界に入って始めてだ」(関西弁は使っていなかった)というひどい失敗もしたが、ナイフを出されたことはもちろんない。演出(CM監督)になりたい私と会社の方針が食い違って会社を辞めることになり、挨拶に行ったときも「いいかげんな業界だから、そのうちお前みたいなやつが、演出でございますって顔してやってくるんだろうな」と最大限の優しいお言葉をいただいた。その後演出にはなったが、挨拶に伺えなかったのは残念だった。
稲見さんといえば人に話したくなるハードボイルドな話が沢山あるのだが、今回は「オリジナルアート」の話をしなければならない。
私にとっては「オリジナルアート」=「稲見一良」なのである。
稲見さんのオリジナルアートは、石に絵を描く芸術である。ストーンアートと呼んでも良いのかもしれないが、ただ石に絵を描いたものではない。最近見かけるストーンアートは石をキャンバス代わりに綺麗に絵を描くものだ。稲見さんのそれは、形のある石に絵を描いて命を吹き込むものだ。

「通いなれた花見川の沿いの散歩道で、何の気なしに小石を一つ拾った。双眼鏡で川の鳥たちをみつめ続けて疲れた目を癒(いや)しながら、掌(てのひら)小石を見るともなく眺めた。
なんでもない黒く丸い小石の、ギザギザの割れ目がふとマントヒヒの顔に見えた。周囲の小石をさらに二、三箇拾い、川の水で洗ってポケットに入れて帰った。思いついて娘の古い絵の具や筆を借りて、川の小石に目鼻を描き、ちょっと色をつけてみた。石ころは、威張った猿の赤ら顔や、卵を狙うスカンクや、羽根に顔を埋めて眠るカモになった。少なくともぼくにはそう見えた。」*稲見一良 角川文庫「花見川のハック 遺作集」(石の鳥獣 まえがきにかえて)より
野鳥や野生動物が好きな稲見さんはよくアウトドアに出かける。海岸や河原を歩いていると足元にさまざまな石ころが転がっている。面白い形の石だなあ、と手に取ってみる鳥や動物の姿が見えてくる。そんな石ころを持ち帰って、自分に見えたイメージをアクリルカラーで描いていく。ただの石ころに命が吹き込まれていく。稲見さんが描いた石には余白がない。石そのものが鳥や動物になっている。
私が見た作品のなかで一番驚いたのは、蜂の巣である。
河原などで時々見かける穴だらけの石。小石の混ざった堆積岩から小石の部分が抜け落ちて穴だらけになったような石。その穴の部分を蜂の巣の穴に見たてて、穴の周りにびっしりと蜂を描いたものだ。なかには穴に入ろうとするものや、穴から出てこようとするものもいて、それを手にしたらハチに刺されそうなリアリティがあった。稲見さんのストーンアートは、石の形から生物の動きや姿勢を想起する観察力・想像力と、思い描いた形を忠実に描画できる技術があってこそ生まれるものである。しかし、前出「石の鳥獣」を読む限り、これ以前に絵を描いた経験はほとんどないということだから、精細な技術は石に絵を描きはじめてから得たということになる。驚くばかりである。
残念な事に、稲見さんの作品は私の手元にひとつも無い。持っている人も知らない。
ただ、「石に絵を描く人」をテーマとした酒造メーカーのCMに出演したことがある。そのフィルムがどこかに残っていれば、石を拾って絵を描き命を吹き込む稲見さんの姿が見られるかもしれない。そのCMの制作進行も、もちろん私が務めさせていただいたが、その時は厳しいプロデューサーではなく、不安な出演者を上手に演じていた。
そのCMの出だしのナレーションはたしか、「不思議な人がいるものだ」だったかな。

水盆栽を作ろう

さて、オリジナルアートのハードルを高くしてしまったかな、と反省しつつ、オリジナルって自分で思いついたのならなんでもいいんじゃないのという、お気楽アートを紹介します。
私が10年くらい前に遊んでいた「水盆栽(すいぼんさい)」です。
これは、植物と石と水で自然の景観や一部を模倣するというものです。一時は熱帯魚水槽の魚を全部友人に譲って空にし、流木やシダやコケでアマゾン源流の風景を作り出したりしていました。そこそこ楽しんだのですが、私には本紙で紹介した田島さんのような根気、集中力、継続性というものが足りません。だから大ざっぱだし、長く続かない。
しかし、こんなものでも、自分でアートだと言ってしまえばそれはそれで楽しいわけですから、皆さんも是非自分勝手になにかアートを初めてみてください。

<水盆栽の作り方>

材料

  1. 水盤(お皿でも可)
  2. 保水用ハイドロボール
  3. 装飾用の白砂
  4. 植物(ガジュマル)
  5. 流木(又は石)

今回はホームセンターで入手可能な材料のため、自然石が使えませんが、河原や海岸で材料を拾い集めるのも楽しいですよ。

手順

  1. 水盤に白い砂を敷き詰める
  2. 砂の上に流木を置く
  3. 流木に植物を配置する
  4. ハイドロボールを盛り上げる(水を吸わせておく)
  5. 水盤に水を張る

ポイント

  • 置き場所の環境に配慮したレイアウトにすること。
  • 完成形をイメージしてから作業にとりかかること。

完成

南海の小島をイメージしてみたのですが、いかがでしょうか。
夏は涼しげで、風鈴の音とよくあうと思います。

是非、お試し下さい。

水盆栽 水盆栽

水盆栽

(LA No.106)

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